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別れの季節
2010年 04月 04日 *
4月ってこんなに寒かったっけ。
1日は嘘みたいに暖かくて桜が咲いていた。
奴らは少なくとも現代人より日付をよく知っているのではないかと思う。

同じ職場の女の子が地方へ異動になった。
本人も突然知らされたらしい。
春だ。

仕事の帰りにたまには飲みに行こうという話になった。
人数は自分を含めて4人。
今度異動になる人も連れて行った。

僕は飲んでいるうち、彼女のことを人間的に嫌いではないなと実感していた。
二人は終電があると言って途中で帰った。
彼女と僕は二人きりになってしまった。
職場で話したことはあるけれど、こうして二人きりになることは今までなかった。
僕はなぜか緊張して何を喋ったらいいかわからず、ひたすらお酒を飲んでその場をやり過ごした。

しばらくすると、お互いの終電も近づいてきた。
「帰ろうか」と僕は切り出した。
彼女は僕の前のグラスを指差して言った。
「だめ。このお酒を飲み終わってから」

今まで無理して飲んでいた分、正直、これ以上飲むのはきつかった。
それで一度断ろうとしたが、拒否された。
この流れになると彼女は絶対に折れない。
仕事を通してそんな頑固な一面があることを知っていた。
でも自分としても一滴も飲みたくはなかった。
「わかったよ。飲むよ」
僕は諦めることにした。

「でも**さんのために飲むんだからな。勘違いするなよ」
そう言って、僕はしまったと思った。
何だかすごい台詞を口にしてしまったかもしれない自分が恥ずかしくなり、思わず下を向いた。
その後、気になって彼女の方をちらっと見た。
よかった、彼女はいつもと変わらない様子だった。

帰りの電車の中、僕は彼女にメールを送った。
**さんがいなくなるのは残念だけど、必ず戻ってきて欲しい。
そんな内容のメールを送った。
でも、何日経ってもメールは返って来なかった。

後日、彼女がどうやら怒っているらしいことがわかった。
メールに気持ちを込めたつもりでいた僕は、なぜ彼女が怒っているのかわからなかった。
どうやら彼女としては、東京を出発するまでまだ日数がだいぶあるのに、これでお別れみたいなメールを送ってきたことが気に入らなかったらしい。

そうだ。
確かに、僕はあの時、「行かないで欲しい」と伝えるべきだった。
たとえそれが冗談交じりの馴れ合いだったとしても、それで彼女が異動になる事実が変わらないとしても。
こういう時、やっぱり言葉って難しいなと思う。
by nochoice1 | 2010-04-04 23:48 *
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The Original by Sun&Moon