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2010年 02月 22日 *
これらはかなり個人的なもので。
自分にしか通じない言葉で。
PCに保存しておけば済むんだよね。
いまさらだけど。
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2010年 02月 18日 *
僕たちは誰だって戦場で死にたくない。
だから死なないための訓練を受ける。

僕たちは最初から戦士だったのだろうか。
ある意味そうだ。
最初から戦争は起こっていた。
戦争という非日常と日常が交錯する世界で。

戦場で戦士たちが死ぬ。
武器によって死亡する。
命の連鎖のようにはるか昔から続いてきた営み。
変わらない非日常。
それは僕たちの日常となっていく。
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2010年 02月 15日 *
相手に自分が好きだということを伝えなければならない時、なんて言ったらいいのだろう。
単刀直入に「好きです」と言う人もいるだろうし、その方法も人によって様々だろう。
だが恋愛において、「好き」という気持ちがちゃんと相手に伝わっているかどうかはそれほど重要ではないのではないか。

自分はあなたのことが好きです。
相手も自分のことが好きかどうかの確認として、自分から「好き」という言葉を放っている。
相手もまた自分のことが好きだったら関係が成り立つし、相手が自分のことを好きでなかったら関係が成り立たない。
単純な話だ。
だから自分の気持ちがありのままちゃんと伝わっているかどうかはそれほど重要ではない。

もう一度最初の疑問に戻ろう。
それでも自分の気持ちそのままを相手に伝えたい時は、どんな言葉を使えばいいのだろう。
だいたい自分が伝えたい気持ちを言葉にしたとしても、言葉を受け取る方が100%その気持ちを理解するなんて出来ない。
例えば「君は~のように美しい」と言ったところで、相手が肝心の「~」を知っていることが前提となってしまう。
さらに、「~」という言葉に対して自分が抱くイメージと、相手の抱くイメージが完全に一致しなければならない。
これが一致していない場合、最悪、相手がバカにされたと勘違いして怒り出してしまうケースだって考えられる。

相手に好きと言う事自体は簡単だが、伝えるのは難しい。
恋愛なんて所詮勘違いさと笑って開き直れるならいいが、そういう人は大抵結婚していたりする。

自分の気持ちを伝えたい時がある。
それは付き合いたい一心でそうしてるのとは違うような気がする。
そりゃ付き合えたらいいんだろうけど、その時はまた別の話だろう。
先のことなんて誰にもわからない。

ちゃんと伝えたいのに、どうすれば伝わるのか。
悶々としながら、また1日が過ぎていく。
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2010年 02月 12日 *
新幹線の開通、高速道路の開通、テレビの普及、大阪万博、NASAの月面着陸。
子供の頃、そんなものを目の当たりにした。
一つのものが世の中全体を変えていくような、そんな夢がどこにもある気がしていた。

僕には兄が一人いた。
とても暴力的な兄だった。
いつも何を考えているかわからない。
同じ血が通っているとは全く思えなかった。
生活は貧しく、兄弟は同じ部屋で暮らしていた。
兄と暮らす間、僕はいつ自分が殺されるのかと脅えながら過ごしていた。

僕と兄はよく喧嘩になった。
ある日、僕と兄は喧嘩になり、僕は兄の顔面を殴ろうとした。
兄はそれをよける素振りを見せなかった。
お前のパンチなど受けてもどうということはない。それより確実に俺はお前を仕留める。
兄はそう思っていたのかもしれない。
その兄の態度は僕に少なからず恐怖を与えた。
僕は隙だらけの顔を殴ってやろうと拳に力を入れたが、胸からこみ上げてくる恐怖感が制止させた。
傍の台所に火をかけたままのフライパンがあった。
僕はとっさの判断で、兄の顔面を両手でがっちり捕まえると、火のかかっているフライパンの上に押し付けた。
「じゅう」と焦げる音がした。その後、肉の焼ける臭いがした。
僕はこのまま自分が殺されるという恐怖感から、必死で兄の顔面をフライパンに表面に押し付けていた。
1分ほど経過し、ようやく自分に迫る危険は回避できたのではないかと思えた。
もしかすると兄は窒息死しているかもしれない。
そう考えると恐くなって、僕は顔面を押さえつけていた手を離した。
すると兄はさっきより動きが鈍っていたものの、生きていた。

僕は暴力的な兄が普段何を考えているか全く理解できなかったが、それでも一緒に暮らさなければならなかった。
身近な所に自分の生活を一変に変えてくれる何かがある気がしていた。
兄の日常といえば、昆虫を採ったり魚を捕まえたりして、それを金に変えようとしていた。
珍しい品種を捕まえれば大金を得られると思ったのだろうか。
確かに人類が月に行ったくらいだから、それくらいのことは起こるかもしれない。
そんな時代の空気が流れていた。

ある朝、兄が酒瓶を抱えているのを見た。
中身は全くわからなかった。
酒瓶の中にはきっと酒や麻薬などが混合された得体の知れない謎の液体が入っているのだろう。
兄はそれを近所の人に売りつけようとしていた。
しかも更に悪いことに、兄の話に興味を示す女性が現れた。
この液体が世の中を変えるかもしれないとでも思ったのだろうか。
そんなはずないのに。
しかし、数日が過ぎると、もしかすると間違えているのは自分の方かもしれないという意識が芽生え始めていた。
そもそも、あの中に何が入っているかなんて僕には全くわからないのだ。

兄と僕は酒場へと足を運んだ。
そこは薄暗い空間に若者達がごった返しており、思い思いのダンスを踊る者もいれば、椅子に座って酒を飲んでいるものもいた。
兄はここで液体を売りさばこうというのだろうか。
見ると、先日兄の持つ液体に興味を示した女性が立っていた。

ところが女性が発した言葉は、僕の予想に反するものだった。
「すぐにここから逃げてください」

僕はあたりを見回すと、入り口の方に数人の男が入ってくるのが見えた。
その男達は周りの若者達と比べて異質な存在だった。
警察だろうか。彼らは僕達を追ってきたのだろうか。
僕はそれを察知すると瞬時にしゃがみ、兄の手を無理やり下に引っ張って腰を落とさせた。
「兄さん、逃げよう」僕は言った。
しかしフロアが人で溢れかえっており、思うように動くことができない。
建物の裏口がどこあるのか見当もつかなかった。
このままでは男達に捕まってしまう。
そう考えていると周囲で不思議なことが起こっていた。
ある人は席を立ち、ある人は席に座り、ある人はダンスを踊っている。
その一つ一つの偶然が積み重なり、逃げるための隙間ができていった。
そして僕はこの建物から脱出することができた。

その後も僕は夢中で兄の手を引っ張って連中から逃げた。
気づくと海岸沿いまで来ていた。
さっきの男達がやって来る気配はなかったが、僕は周囲を警戒していた。
そして僕はこれから起こる出来事を、生涯忘れることはないだろう。

陸の方ではなく、海の方から「それ」はやって来ていた。
最初は白くて細い棒のように見えた。
しかし時間が経つと、それが単なる棒ではないことがわかった。
得体の知れない巨大な塔がこちらに向かって進んできている。
その姿はだんだん大きくなっていった。
塔が近づくにつれ、塔がこちらにやって来ているのか、僕の立つ陸が塔に向かって進んでいるのかわからなくなった。
輪郭がはっきりしてくると、塔の真ん中にはトンネルのような黒い穴が開いているのが見えた。
やがて塔はこちらまであと一歩のところまで接近すると、僕達ごと一気に飲み込んだ。

辺りは黒い闇に包まれていた。
そこはまるで宇宙のようだった。
兄と僕はその空間の中で浮遊する宇宙飛行士のようだった。
そこで僕は言葉では形容しがたいものを発見した。

それは一眼レフに装着するレンズに似ており、サイズは実際のものより大きい。
そのレンズがいくつも水中を回遊する魚のように漂っていた。

一つのレンズが僕達の目の前で静止した。
レンズは僕達のことを見ていた。
そしてレンズは兄の持っている酒瓶に視線を移動した。
レンズは酒瓶に対して光を照らした。
それはまるで中身を分析するかのようだった。
やがて光の照射された酒瓶に模様が浮かび上がった。
その模様はレンズの外観・形状と非常に調和の取れた形だった。
レンズは確認を終えると、塔と一緒にどこかへ消えてしまった。
兄と僕を残したまま。
兄の方に目をやると、手に酒瓶を持っていなかった。

それから何年か過ぎた。
レンズと遭遇する事件は二度と起こらなかった。
だがあれは一体何だったのかという思いは消えずに残ったままだ。
僕はあの出来事がきっかけで精密機械工学を学び、今では光学機器メーカーに勤めている。
兄はあれから何度か傷害事件を起こし、刑務所で服役中だ。

未だにわからない。
得体の知れない塔とその中に潜んでいたレンズの群れもさることながら、なぜあの時、兄と僕はあの建物から脱出することができたのだろう。
その時点でおかしな出来事の前触れは既にあったのだ。
普通に考えて、あんなに都合よく出口へ逃げられるはずはない。
まるで第三者があのフロアにいた連中を操っていたかのように。
あのレンズ達(地球外生命体、いや生命という概念を超越している存在としか思えない)は、人の心までをも動かすことができたというのだろうか。

フロアの若者達はみな思い思いの行動を取っていた。
そして僕達が出口へと直進できる可能性は限りなくゼロに近かった。
にもかかわらず僕達は、一本筋の道に導かれるように脱出することができた。

当時の光景を思い返してみよう。

一人の若者が席を離れた。
そばにいた別の人間がその席に座った。
そして開いた空間に別の人間が移動してきた。
そんな行動の連鎖が次々と起こって、出口への道が開けた。
例えるならドミノ倒しのように。
それぞれの動きは単体では起こり得ないが、すぐそばである事象が起こったから起こり得た一連の出来事。
それを意のままに操れる者がいたとすれば、それはもう神としか言いようがない。

だがもしあの時出会ったのが神だとしたら、兄の顔の大火傷の痕をきれいさっぱり消してくれたのではないだろうか。
そして兄の暴力的な性格もきれいに取り払って、僕達が神と出会った記憶すら消し去ってくれたのではないだろうか。

そう、あの出来事には何となく目的が感じられる。
兄の持ち物の回収。
一体どこからどこまでが仕組まれていたのか。
どこからが神の領域と呼ばれる部分なのか。

レンズ達は最初から兄の酒瓶を回収するつもりだったのかもしれない。
自ら種を蒔き、育てた稲を計画的に刈り取るように。
だから彼らはこの世に暴力的な兄が生まれることを許したのかもしれない。

もしあの時出会ったものが本当に神なら、僕は神を慈悲深い存在とは思わない。
兄が顔に負っている傷は、僕の心をいつまでも苦しめるだろう。
直接会わなくても心の奥底で罪の意識に苛まれ続けるだろう。
僕が呼吸をし続ける限り、そして兄が呼吸をし続ける限り。

40億年前、地球上で最初の生命が誕生した。
しかし、人類はこれまで一度も生命の製造に成功してはいない。
宇宙で生命が誕生する確率は限りなく低いと言われている。
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2010年 02月 12日 *
いつ最後の書き込みになるかわからないから、なるべく書き残しがないようにしたい。
今回は僕の父親について。

といっても僕は父親のことをよく知らない。
知らないのだが、なんとなく想像しているイメージがある。
そのイメージはテレビに出てくるビートたけしに似ている。
といっても僕はビートたけしのことをほとんど知らない。
知らないのだが、僕はビートたけしの想像上のイメージを持っていて、
そのイメージが父親と似ている。少しややこしいかもしれない。
ビートたけしは東京・下町で生まれた。
言われてみればそんな感じがしないだろうか。あくまでイメージだ。
また僕の父親も同じところで生まれた。
これも言われてみればそんな感じがする。

口調に関してはかなり似ている。
すぐばかやろうと怒鳴ったりすることがあるが、自分なりの解釈を付け加えてるなら、あれはキレて言っているのではない。
性格的に短気でもない。
上手く説明できないのだが、そういう気質なのだ。
自分自身、子供の頃のことはよく憶えていないが、父親はよく夜遅くに酒を飲んで帰ってきて、夜遅くまでテレビを見ていた。
子供にとって夜のテレビほど面白い時間はないから、僕もずっとテレビを見ていた。
もともと広い家ではなかったから能動的にテレビを見に行ったのではなく、見てしまったという表現の方が正確かもしれない。
だが僕は夜遅くまでテレビが見られて楽しかった。

僕は父親とあまり会話を交わしたことがない。
僕に対してこうしろああしろといったことは口にしない。
ただ毎日会社に行き、酒を飲んで帰宅した。
等級でいえば一番近い肉親なのに、父親は僕に対して何も言わなかった。

現在父親は退職し、ずっと家の中で生活しているようだ。
会社には行っていないから、僕は現在の父親をイメージすることができなくなってしまった。
もちろん過去の父親がどういう人物であったかはわからない。
ただ子供の頃一緒に過ごした記憶は残っている。
毎日会社に行き、酒を飲んで夜遅くに帰宅する。
夜遅くまでテレビを見た。
たったそれだけのことが、僕の全てだったように思う。
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2010年 02月 11日 *
なぜ他人は趣味を聞いてくるのだろう。
いいかもしれないと思ってそれを仮に趣味と言ってみたところで、いつまで経っても辿り着けない。
だから趣味なんてない。

面白いと思ったことなんてない。
掴んだと思ったら手から離れていく。
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2010年 02月 08日 *
自分は1分1秒を大切に生きているのかと。
きっと違うと思った。
それが悔しかった。
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2010年 02月 07日 *
「本日はお忙しい中、お時間を頂きまして…」
「いいからいいから、そういう堅苦しい話は抜きにしてしゃべろうや」
「恐れ入ります」
男はゆったりと足を組んで椅子に座り、僕もそれに合わせて腰をおろした。

「クックックック……」
男は急に笑い出した。
笑うというよりも、笑いを押し殺そうとして、それができずに出てしまう声のようだった。
あるいは寝ている時にまるで自発的に発せられたかのような奇妙な笑いだった。
何がそんなにおかしいのか。

「あの、どうかされましたか?」
「いやいや、そうか、君は初めてだったのか。だったらわからないかもしれないなあ」
男はすまなそうに言った。

男に悪気はなさそうだったものの、僕はさっそく経験不足の新人のレッテルを貼られたように感じた。
確かに僕は学校でタバコを吸う不良ではなかったし、成人してからもマリファナパーティに参加したこともない。
近年、若者に忍び寄る薬物についてクローズアップされるようになってはいたものの、取材経験は皆無だった。
世間一般的には麻薬とひとくくりにされる薬物について、違いはほとんどわからなかったし、それを常用する人間の取材は今回が初めてだった。

「自然と笑いがこみ上げてくるんだ。おかしいだろ?でも、奇妙に思われるかもしれないけど、こんなものなんだよ。
自分で作ったギャグにしばらく笑ってしまうことなんて日常茶飯事でさ」
「もしかして今も、やってらっしゃるんですか?」

「クックックック……。おもしろいな、あんたのその言い方。……その通り」
男はにやりと笑った。そしてこう付け加えた。
「取材対象者がやってないと取材にならないでしょ」

この男の発言は一見自己正当化のようではあるが、これは嬉しい誤算だった。
このまま取材すればきっと詳細な記事が書ける。
だが一つ心配があった。
向こうのテーブルの上に栓の開いたビールが何本か置いてあったからだ。
僕は男が飲酒をしているかどうかを確認しなければならない。

「ひょっとして、向こうのテーブルのお酒も飲まれていますか?」
「飲んでるよ。ははは…」
二人はお互い沈黙し、妙な空気が流れた。
その後男は口を開いた。
「そうか、わかったぞ! こりゃあんた随分と仕事熱心だな。
もし俺が酒を飲んでいたら、この状態がこいつの効き目なのかそれとも酒が効いてるだけなのかわからないってんだろ?」

男の勘は鋭い。
自分の考えていたことをそっくり言い当てていた。
僕はこう白状した。
「おっしゃる通りです」

「よし、何も知らないあんたに特別にレクチャーしてやる。特別にな。クックックック……」
男はいたずらっぽい顔で言った。

僕はあることに気づき始めていた。
この男は今、「特別に」という自分のフレーズと、そんなことを言う自分の姿に対して笑っている。

「まず、こいつは肉体に作用するものじゃあない。だからこれを使ったからって100m10秒以内で走れることはないし、筋肉が強化されることも絶対にない。
これは人間の精神に作用するものなんだ」
「なるほど。でも覚せい剤のような薬物は、効いている最中に何も恐いものがなくなり、電信柱に登ったり極度の興奮状態になったりする事例があるようですが」
「ほう、少しは知っているようだな。関心関心。でも、こいつは覚せい剤のような危険な薬物とは全く違う。本当に全然違うんだ。結論から言わせてもらうと、覚せい剤が違法なのは正しい。あんなものがあっても世の中がちっとも良くならない。第一、健康に悪いんだからやめた方がいいに決まってるだろ」

待て待て、覚せい剤が健康に悪いって? 覚せい剤は人体に有害なタバコ等と同じレベルか?
僕がしばらく思考していると男は口を開いた。

「なんだかよくわからないって顔だな。覚せい剤をやってる人間がみな中毒者になると思ったら間違いだぜ。毎日仕事帰りに酒を飲む人間の全員がアルコール中毒患者でないのと同じだ。もちろん、世の中には薬の中毒者は沢山いるがな。何でもやりすぎは良くないってことだ。塩3g摂取するところを間違えて100g摂取したら体に悪いだろ? 薬で命を落とす奴の大半は、薬を断ってしばらくして再開する時に以前と同じ量でやるからなんだよな」
男は薬で死んでいったものたちに同情するように言った。

「あなたの今やってらっしゃるこれについてはどうですか、副作用はありますか?」

「副作用はまったくない。世間ではよく誤解されてるようだが、量を間違えない限り、あんたがいつも食ってるジャンクフードよりはるかに安全だ。中毒性や精神依存といったものもない。馬鹿な連中さ。自分達でやったことがないのに違法だなんだと騒ぎ立てる。やってみたらすぐわかるのにな。
だいたい、薬が合法か違法かって話は時代や国によって様々なんだ。法律で違法と書かれてたら違法で、違法と書かれてなきゃ合法だよ。クックックック……」

男は再び自分の言い回しにこらえ切れず笑っていた。
確かに男の言うことは間違いではない。現在違法とされている薬物はかつては合法とされていたものだ。
それが違法となるには当時の時代背景や薬による事件などが関わっている。

「では、あなたのしているこれについて違法性はないというお考えですか?」

「ああ、まったく。そうだ、忘れてた。そろそろ本題に入ろうや」
「本題について?」
「そうだ。こいつが人間の精神にどのような影響を与えるか。そしてこいつの本質について。
俺は一番これが言いたかったんだ。しっかり記事に書いてくれよ。クックックック……」
さっきより饒舌になった男はこう続けた。

「こいつをやるとどうなるか……。しあわせ。単刀直入にいうなら、この一言に尽きるな。こいつがあれば俺はとても幸せな状態になれる。さっきあんたはどうして俺が酒を飲むのか心配していたな。別に普段の俺は酒が好きな訳じゃないんだ。でもこいつをやると俺はしあわせになる。だからその完璧な幸せな状態でさらに酒を飲んだらもっと幸せになるって寸法さ。まあ何もやっちゃいないあんたにはぴんと来ないかもしれないがね。こいつと酒は一緒にあるんじゃない。まずこいつがあるから俺が幸せ。だから酒がおいしくなるのであって、酒がおれを幸せにしてるんじゃない。俺から言わせれば普通に考えたら酒だってろくなもんじゃないだろうさ。クックックック……」

まるでいっぺんに変わってしまった世界を見てるような言い方だった。
これがあればこの世に蔓延する全ての問題が解決するのだろうか。
そんな夢のような話が実在するとでもいうのだろうか。

「しあわせなんてさ、多くの大人たちが忘れた感覚じゃないのかね。」
男はつぶやくように言った。

そうかもしれない。
少なくとも僕はここ数年、しあわせを実感できる時間を過ごしていなかった。
僕はこの男の言うことを認めざるを得ない。

「テレビをつけると夢のようなキャッチコピーばかりが氾濫している。俺もかつてはそんなものは存在しないと信じていた。だがね、それが実際にあったんだ。それがこんなに身近なところにあったなんて。驚くべきことだ」

男はどうやら本当にしあわせを実感しているようだ。
意外だった。
取材する前は自分勝手で貧相なジャンキーの相手をすることに対し身構えていたのに、今ではこの男のことをうらやましいとさえ感じていた。

「これをやっている間はどんなことをしていますか? 例えば車を運転して危険だったりするようなことはありますか?」
「そうだな。いろいろだよ。映画を観たり、音楽を聴いたり……。実に素晴らしい。
車の運転に危険はない。しあわせを実感する以外の作用はないからな。ああそうだ、恋とか。きみね、恋はいいぞ。クックックック……」

恋はいい――そんな台詞をブラウン管以外の所で聞くとは思わなかった。
だが、この男は嘘をついてはいない。心から感じたことを言っているに過ぎないのだ。
僕はこの男の覗いている世界に少なからず興味をおぼえた。

「恋ですか…。経験上、するものじゃないと思っています」
僕は苦笑いを浮かべながら言った。
「あの、本日はこれで失礼します。記事は再来月の分に掲載される予定ですので…」
僕は取材を切り上げようとすると、男はこう言った。

「試してみるかい?」

「え?」
「もちろん強制はしない。きみが世間で言われる幸せというものに興味があるといいんだが」

興味はある。僕は心の中で密かに思っていた。
だが、ここで素直にもらうわけにはいかない。
確かにもらいたい気持ちはないと言えば嘘になるが、取材対象者に実物をもらうことにはためらいの気持ちがあった。

「いえ、お気持ちだけで十分です。また記事の内容についてご不明な点があればいつでもご連絡ください。
それでは失礼します」

こうして僕は男の部屋から出て、その足で事務所に戻り記事を書き上げた。
しかし、2週間ほどして再来月の企画が大幅に変更され、僕の記事もお蔵入りすることになってしまった。
僕はそのことを伝えようと男に連絡をとろうとした。
何より記事を期待していたのは、あの男のような気がしてならなかったからだ。

男の携帯に電話する。
だが何回かけても男につながらない。

仕事が早く終わった日にの帰りに男の部屋に立ち寄ってみたが、男はいなかった。
もともと表札がなかったので、彼がここにまだ住んでいるかもわからない。
彼はどこに行ってしまったのか。

ひょっとして幻でも見ていたのだろうか。
嫌な予感がしてかばんから手帳を取り出してみる。
手帳の中身をみると、やはり彼と会ったのと同じ日付に時間と場所が記載されていた。
間違いない、僕はあの日に男と会っている。
それなのに彼は行方をくらましてしまった。

何かよくない事件に巻き込まれたのではないか。
そう思い、僕はかつて男の住所を記載したメモ用紙を探した。
しかし職場の自分の机を探してもメモは見つからなかった。
次にかばんの中をもう一度探してみる。

「あっ」
思わず声をあげた。
見つけたのはメモではなかった。
本来かばんに入っていないはずのものを見つけた。
以前、男が僕にすすめた粉末だった。

男はなぜこれを僕に託したのか。
僕が彼の申し出を断ろうとしたとき、本心を見抜かれていたのかもしれない。
確かに興味はあった。
できれば少量でも譲って欲しい気持ちがあった。
僕は粉末入りの丁寧に折りたたまれた包みを眺めながら、これは彼なりのささやかな気配りなのだと解釈することにした。

彼が音信不通になってしまった今、彼と自分を結びつけるものはこの粉末しかない。
こいつの成分を特定し、入手経路を調べることが彼を探す唯一の手がかりになる。
僕は取材中、相手に新人記者となめられないように粉末の名称すら確認していなかったことを悔やんだ。

だが思う。
それは彼の望んだことなのだろうか。
粉末の成分の詳細な分析を行い、彼の後を追いかけることが彼の望みなのだろうか。
音信不通となった理由がわからないにせよ、彼はそれを望んではいないはずだ。
そう思い直し、僕は白い粉が入った包みを手でそっと開封した。

彼はこれを静脈に注射するのではなく、炙って吸引するのでもなく、ただ水に溶かして飲むのだと言っていた。
同じ麻薬でも摂取の方法は人によって様々と聞くが、水に溶かして飲むというのは普通の風邪薬と変わらないようで、少なくとも僕の抱く麻薬のイメージとは遠かった。

僕は白い粉を水に溶かし、おそるおそる口に含み、それから一気に飲み込んだ。

薬を摂取してから30分経過した。
だが体調に特に変化はない。
それから半日経っても期待したような変化はなかった。
僕はいつの間にか白い粉のことなど忘れ、なかなか片付かない仕事に取り掛かかる日常に戻っていた。

次の日も仕事で帰りが遅くなった。
だが深夜帰宅すると何かがいつもと違っていた。
次から次へとおかしな冗談が思いつき、それに堪えきれず声を出して笑ってしまう。
部屋の中で一人で突然声をあげるのは奇妙なことだと思っていたが、我慢しても声が漏れてしまうのだ。
「クックックック……」
その声を聞いた時、ようやく自分に薬が効いてきたのだと気づいた。

数時間して、あの男が僕に伝えようとしていたことが徐々に実感を伴ってわかるようになっていた。
確かに彼の言っていることは間違いではなかった。
現に僕はしあわせを実感している。
しあわせがこんなに近くあったなんて。
どうして気づかなかったんだ。
それにこんなちっぽけなものでこんなに感覚が変わるなんて。
それを言ったら人間なんて所詮はちっぽけなものかもしれない。

僕はいましあわせだ。
「終わりよければ全て良し」そういう言葉が思い浮かんだ。
今までの苦労はこれを得るためにあったのだと思えた。

今まで見ていた世界が一変した。
音楽や映画がこんなに素晴らしいものだとは思わなかった。
果物を食べても果肉の一粒一粒にジューシーな味が感じられ、こんなにおいしいものだと知らなかった。
何をやっても新しい発見があった。
共通して言えるのは、そこに流れるしあわせな感覚。
恋か……。それもいいかもしれないな、クックックック……。

これがあれば戦争なんてなくなる。
みんながしあわせだから争う必要がないのだ。
米国は、なぜはるか遠くの国まで行って戦争してるんだろう、クックックック……。

もちろん人によって主義は異なるだろう。
人種の違い、言語の違い、文化の違いが埋められないように、人々の考え方は様々だ。
この粉は人間を覚醒させたり興奮させたりする作用はないが、平和主義に近い考えをもたらす。
資本主義だろうと共産主義だろうと、人の主義まで支配する権利なんてない。
青色が好きな人もいれば、赤色が好きな人もいる。
それでいいじゃないか。みんながしあわせならいいじゃないか。

これには世の中を変える力がある。
全ての人間が同調するものではないにせよ、一定の賛同者は表れるはずだ。
そうすれば世の中が今より少しはマシなものになるかもしれない。

思えば子供の頃にはしあわせの感覚がまだあった。
はじめて遊園地に行ったときの記憶。
こたつでうたた寝しまったとき、父親が僕を持ち上げて布団まで運んでくれた記憶。

それから僕は、かなわない夢ばかりみるようになっていた。
街にあふれるキャッチフレーズを信じきっていた。
それに近付こうと、どんなにがんばったことか。
ところが幸せの秘訣はこんなにも身近にあったということ。
全てを解決してくれるものがここにあった。

次の日もしあわせな感覚は持続していた。
会社に向かう途中の朝も憂鬱ではなかった。
むしろ今まで味わったことのないような清々しい朝を迎え、電車の中でも小学校の遠足に行く時のような気分だった。
知らない世界を見られるかもしれないという期待感がそこにあった。

いつものように仕事を終えると、僕は会社のビルの屋上にのぼった。

みんながしあわせな気持ちになれるなら、こんなに素晴らしいことはない。
僕はこのしあわせを他の誰かに伝えなければならない。
その気持ちが時間の経過とともに強くなっていった。
男が姿を消したのは気がかりだが、たとえそれで自分の存在がこの世から消えてしまってもかまわないさ。

屋上からは夜景が広がっている。
眼下の歩行者は遠く離れ、マッチ棒よりも小さく見える。
僕は思い切り息を吸い込んで下の歩行者や自動車の群れに向かって叫んだ。

「僕はいま、しあわせだーー!」

この声は届くだろうか。
たぶん、誰にも届かないだろう。

それでも僕はやめない。
誰の耳に届かなくても。
誰の心を動かせなくても。

ひょっとしたら、あの男も今の僕と同じ気持ちだったのかもしれない。
そう思いながら、僕はもう一度大きく息を吸い込んだ。
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The Original by Sun&Moon