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映画『ハート・ロッカー』
2010年 03月 14日 *
映画『ハート・ロッカー』を観た。(以下ネタバレを含みます)

題名を読んだだけではピンと来ないが、イラクに駐留する爆発物処理班を描いた映画。
あらすじだけを見ると分かりやすそうだが、作者が何を伝えたかったのかよく分からなかった。
娯楽映画でもないし、ドキュメンタリー映画でもない。
カメラはひたすら爆発物処理班の3人の様子だけを捉えることに徹している。
リアリティを考慮するなら、イラクでは爆発物処理班以外の兵士が死亡するシーンがあって当然だが、
そういったシーンは本編にはほとんどない。
また、ハイスクールを卒業したての新米兵が戦場に投入され苦悩するといったお決まりパターンも出てこないので、この映画の属性を上手く説明できない。

新たなテーマとしては「中毒」が取り上げられている。
中毒というと意味の広い言葉だが、この映画の場合は戦争中毒ということになる。
といっても戦争中毒がどんなものかを明確に描いているシーンは少ない。

中毒というと禁断症状を連想するが、それともう一つ、耐性がセットとなって語られることが多い。
麻薬中毒を例に挙げるなら、ジャンキーが普段の量では以前の快楽が得られないために、摂取する薬の量が徐々に増えてしまう現象がある。
これを耐性と呼ぶ。

タバコについても同様のことが言えるかもしれない。
喫煙者の皆さんはタバコの1本1本を本当においしいと思って吸っているだろうか。
答えはノーだと思う。
その中には当然まずいタバコもあり、吸わない方がよかったタバコもあっただろう。
全てが全部最高の喫煙ではなく、そのうちの何本かは惰性で普段の習慣からなんとなく吸っているのだ。
初期の吸い始めの頃は、本当に美味しいと感じた時期が確かにあった。
ただその感覚を今味わえるかといったら怪しいもので、行き過ぎると自分が既にタバコを吸っているのにもかかわらず
「タバコ吸おう」なんて思ってしまうくらい薄っぺらいものになっているのだ。
そして、そんな風に感覚が変容してしまった自分に戦慄する。
それゆえ、ヘビースモーカーの中にはわざと半日禁煙して、精神的に辛くなってからタバコを吸い始める猛者もいるという。
確かにその方がかつての刺激を得られるのかもしれない。

映画の後半に赤ん坊に語りかけるシーンがある。
「お前はお父さんもお母さんも、このおもちゃも大好きだろう。でも大人になれば、好きなものは一つか二つになってしまう」
ぼーっと観てると流してしまいがちなシーンだが、おそらく作者は「中毒」を説明するためにこの台詞を使用したのだろう。
要するに主人公は戦争以外好きなものはなく、それ以外何も感じなくなってしまった中毒者である。
どうして人は大人になると何も感じなくなってしまうのだろう。

映画としての見せ方はそれほど上手くない。
僕はふとある友人のことを思い出した。
そいつはギターがアホみたいに好きで、暇さえあればギターを弾いていた。
最初のうちは何も感じなかったが、数年経つと変化に気づく。
音質があきらかに違う。
音域のハイの部分を異常に上げすぎているのだ。
それゆえ周りからは常に失笑をかっており、彼の音を褒める者は誰もいなくなった。
音質を一言でいうとドラえもんに出てくるジャイアンの歌声のようにひどかった。
でも彼は毎日それこそ中毒のようにギターを弾きまくり、行き着いた結果があの音なのだ。
だから僕は何も言えなかった。
これから1000年経とうと、周りに受け入れられる日は来ないと直感的にわかっていても。

この映画は彼の音と同じくらいクセがあった。
もしかすると映画館のスタッフが変に加工していたのかもしれないが、もともとそういう音質であった可能性の方が高いと思う。
見せ方にも少しクセがあったので。
本人にとっては長年の試行錯誤の結果として辿り着いた究極の心地よさなのかもしれないが、自分のような一般ピープルにはその良さがわからなかった。
by nochoice1 | 2010-03-14 14:38 *
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