Top
再会
2011年 09月 30日 *
会社の先輩と歩いていた。
僕はいつも早足で歩く。
人ごみはなるべく避けて歩く。
エスカレータだって乗ってから歩く。
でも、上りエスカレータと下りエスカレータが並列に配置されていると、
自分が下っている時に上りエスカレータ側の沢山の人とすれ違う。
あれが嫌だ。
エスカレータと階段が両方設置されているなら、僕は迷わず階段を歩く。

僕は会社の先輩と歩いていた。
早足で歩きたかったけど、先輩もいたからゆっくり目に歩いた。
だから少しドキドキしていた。
そしてよりにもよって、この世で一番会いたくない女性にばったり出会ってしまった。
開口一番こう言われた。
「メールアドレス変えたでしょ」
「そんなもの持ってないよ」
「嘘。住所も変えたでしょ。ねえ、今度彼と結婚するの。招待状を送るから住所教えて」
「何で教えなきゃいけないんだよ。招待状なんか要らないって。第一、どうして俺が結婚式に出なくちゃならないんだ」
こいつは本当にいい加減な性格で、言っている言葉の半分も信用できない。
結婚出来るかどうかもわからないし、どうせすぐに破談になっちまうんだろう。
「見て、すごいきれいなお店だよ」
歩いていると突然横のレストランを指差した。
僕は面倒くさそうに答えた。
「そこは世の中で最低最悪の店だよ」
彼女の言う通りその店は繁盛している様子だったが、全く理解できなかった。

会社の先輩と一緒だったので、彼女と僕の関係をどう説明しようか困った。
だけど、先輩は聞いてこなかった。
先輩はスポーツとかギャンブルの話題で彼女と意気投合していた。
僕にはスポーツもギャンブルも全く興味がなかった。
「おい、そんなにくっつくなよ」
「どうしたの、照れてるの?」

彼女は僕をいちいち挑発してくる。
僕は彼女と二人で並んで歩くのが嫌で仕方なかった。
また万民向けするであろう容姿の彼女と僕が並んで歩くのを会社の先輩に見られるのも嫌だった。
僕は歩調を強めた。
彼女もそれに合わせてついて来た。
会社の先輩と一定の少し距離ができた。
僕は彼女に言いたいことを言った。
「俺は速く歩くのが好きだから、いつも速く歩いてるんだ。よそ見をしたりもしない。上も見ないし、下も見ない。
 常に前だけを見て歩いている。だから約束してくれ」
「何を?」
「街中で万一、俺とばったり遭遇してしまったとしても、俺は他人だ。どうか他人として扱って欲しい」
「やだ」
即答された。
「やだじゃない。約束しろ」
俺が鬼気迫る勢いで彼女を説得して、ようやく了承を得ることができた。

それから彼女と別れて会社の先輩と食事をすることになって、小奇麗なレストランに入った。
こういうレストランはあまり好きじゃなかったが、先輩と一緒にいる手前、仕方がなかった。
店内は混んでいて、ちょうど僕の席がなかった。
先輩が店員を呼び、椅子を持って来てくれるよう頼んでくれた。
僕は先輩にトイレに行くと言ってレストランを出た。

そよ風が吹いていた。
道には車が走っていた。
その日の夜空が僕の最後の景色になった。
[PR]
by nochoice1 | 2011-09-30 13:23 | フィクション | Comments(0) *
<< テスト投稿 ページトップ local >>
The Original by Sun&Moon